左が清掃前、右が清掃後。溜まった落ち葉は、きれいに掃き清められている。

「皆さん!、無理はしないでね」
 
そう声をかける守分雄治さん(FORCE監督)の言葉を尻目に、参加者全員、寒さをものともせず、額に汗しながら、全力で清掃に勤しむ。
だが、どの顔も笑顔で溢れている。
腰が痛いだのと文句を言いながらも、参加者全員、実に楽しそうだ。
 
暮れも押し詰まった2019年12月28日、京王線:聖蹟桜ヶ丘駅から徒歩10分ほどの「いろは坂」(東京都多摩市桜ヶ丘)に、49人のサイクリストたちが集まった。日頃より、いろは坂を練習場所とするサイクリストたちが感謝の気持を込めて、清掃活動を行ったのだ。
 
この活動は、『東京2020応援プログラム』として、認証を受けた。
東京2020オリンピック/パラリンピック終了後も、社会に継続的に貢献していく活動として認められたのだ。
 
本活動に、一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクト(以下、グッチャリ)から、代表理事:韓と、黒木、坂田の三名が参加した。その様子をレポートしよう。

※画像は、すべてクリックで拡大します。

 
 
 

清掃活動の始まり

今回清掃活動を行った「いろは坂」

いろは坂は、京王線:聖蹟桜ヶ丘駅から徒歩10分ほどの場所にある。『耳をすませば』(スタジオジブリ)のモデルとなったと言われており、現在もアニメファンたちが聖地巡礼として通ってくる。
 
長さ700m、平均斜度8%ほどのいろは坂は、実業団レベルのサイクリストにとっては、インターバルトレーニングを行うのに、うってつけの坂である。清掃活動中も多くのサイクリストたちが通り過ぎていった。
 

いろは坂清掃活動の発起人である、中山 沢(なかやま たく)さん

 
中山 沢さんが、いろは坂清掃活動を始めたのは5年前のこと。最初は、ひとりだった。
やがて、守分雄治さんが監督を務める「FORCE」のメンバーも加わり、今回のように大人数で清掃活動を始めたのは3年前だった。

「練習をしていると、警察に通報されたこともありました。
清掃活動を始めてしばらくした頃、練習をしている私たちのことを、問題視するような発言が、自治会で出たことがあったそうです。
その時に、いろは坂の上にある居酒屋『和桜』のマスターが、『あの人たちは、ちゃんとした人たちだよ!』ってかばってくれたんです」

3年前は20人。2年前が30人。そして、今回の参加者が49人。
中山さんが、ひとりで始めた清掃活動は、着実に広がり、そして地域社会に浸透していった。
 
 
 

なぜ、清掃活動を行うのか?

「FORCE」の監督を務める、守分雄治さん

 
サイクルスポーツは、公道を使ったスポーツである。
そのことを踏まえ、守分さんは、清掃活動を行う意義を、このように説明した。

「残念ながら、交通ルールを無視し、道路を傍若無人に走る自転車もたくさんいます。
だからこそ、社会貢献活動を行う意義があります。
『社会ときちんと折り合いをつけているサイクリストもいるんだ!』ということを知ってもらい、地域住民にも理解してもらえるわけですから」

いろは坂清掃活動には、『KAPELMUUR』などのサイクルアパレルを提供する、株式会社ウエイブワン:中田明社長も、多忙な合間を縫って、参加してくださった。
 

株式会社ウエイブワンの中田明社長

 

「なぜ、日本人がツール・ド・フランスで勝てないのか?
それは、サイクルスポーツの裾野が狭いため、野球やサッカーなどに比べると、圧倒的に競技人口が少ないからです。
競技人口を増やすためには、地域貢献活動を積極的に行い、自転車競技を行う子どもたちを増やさなければなりません」

地域社会との共生と、私どもサイクリストに対する社会理解。
これは、グッチャリが行う活動の原点とも共通する。
 
いろは坂清掃活動は、『東京2020応援プログラム』として認証を受けた。
『東京2020応援プログラム』とは、「様々な組織・団体がオリンピック・パラリンピックとつながりを持ちながら大会に向けた参画・機運醸成・レガシー創出に向けたアクションが実施できる仕組み」(『東京2020参画プログラムについて』より抜粋)である。

「いろは坂清掃活動を、全国のサイクリストが真似をして、どんどん広がって欲しいと思います」

(中山沢さん)

『東京2020応援プログラム』に認証されたことによって、いろは坂清掃活動は広く周知される。
ぜひ、いろは坂清掃活動を知り、地域社会との共生を図り、社会貢献活動に勤しむサイクリストが増えることを期待したい。
 
 

参加者インタビュー

田渕君幸さん (TRYCLE / タブチン自転車研究部


 
いつも練習している、いろは坂で清掃活動があると聞き、参加しました。
こういう活動がもっと広がれば良いと思います。
 
 

自転車女子たち

  • 以前は練習していると、住民の方々から白い目で見られることもあったが、清掃活動を行うようになって、「頑張って!」と声を掛けてもらえるようになった。
  • 地域からの理解が得られる活動なので、全国に広がればいいと思う。
  • こういった活動は、ひとりではできないので、こういう機会を作ってくれるのはありがたい。
  • わざわざクルマを止めて、お礼を言ってもらえた。
  • あいさつって、昔は普通にしていたけど…、今は知らない人には、なかなかあいさつをしないと思う。だけど、この清掃活動をしていると、たくさんの人が挨拶をしてくれて嬉しい。

 
 
 

「いろは坂清掃活動に参加して」by グッチャリ理事

代表理事:韓祐志

サイクリストという種族は、一般の方が「想像」もしないような場所:激坂に集まってしまう習性がある。一般人が想像もしないような所にロードバイクが集まりはじめると、概して良くないこと、例えば事故が起きてしまった
り、個々のサイクリストが特別悪いことしてない(つもり)でも、わらわらと人が集まってくることにより苦情が出たりすることが往々にしてあるものだ。ヤビツ峠然り、白石峠然り。
 
この激坂をホームとして週1の練習会を行っているチームFORCEの素晴らしいところは彼らの「想像力」にあると思った。
練習会を行っている地域の方々がそうした自分達のことをどう思うか、どうしたら理解を得られるか、の想像力である。
 
一般道なんだし、交通ルール守ってさえいれば文句ないだろ?なんて決して開き直らず、道を使わせてもらっている、という気持ち。
 
苦情が出るなど、良くないことが起きる前に、こうした清掃活動を始めて、逆に地域に理解され、(たぶん)感謝されるような存在になっていることの美しさ。我々グッチャリが活動の軸としている荒川河川敷道路では、残念な
がら、良くないことが先に起きてしまっていて対症療法になってしまっている。FORCEの守分監督や中山さんからこの活動の話を聞き、実際に自分も参加してみた。「別に仕事じゃないんだから気楽に楽しくやりましょう」と中山さん。皆和気あいあいと笑顔で清掃をしていた。こうした想像力(創造力と言い換えても良い)のある人々があつまる場所には、きっと良くないことは起きず、笑顔のある場所になっていくのだろうと思った。第二、第三のいろは坂が増えて行って欲しいし、新たなそういう場所があったらまた観に行って、参加して、他のサイクリストの皆さんに発信していこうと、忘年会明けの寝ボケアタマに刻み込んだ。
 
 

理事:黒木尊行

桜ヶ丘のいろは坂は、私の定番の自転車コースでもある。
以前からForceメンバーや多摩地区のサイクリストがいろは坂の清掃活動をしていることは知っており、興味があったが、今回、Force守分監督からお話があり、グッチャリとしてお手伝いさせていただく機会をいただいた。
 
グッチャリで荒川クリーンエイドをお手伝いしている河川ごみとはかなり様相が違い、いろは坂は落ち葉が大半である。
自然のものなので拾わなくてもよいのでは?とも思っていたが、アスファルトに積もった大量の松の枯れ葉に行き場はなく、自転車だけでなく歩行者にとっても滑って危険だろうし、自動車の轍で積雪時の雪のように道路の真ん中に「積もった」枯れ葉もある。
そして、何よりも景観が良くない。
この枯れ葉を皆で協力し合って除去していったが、多くのサイクルウエアを着た人たちが坂道に張り付いて清掃する光景は壮観で、自動車やバスの乗客、通りすがりの住民、坂を上ってきたサイクリストたちにかなりのアピールになったのではないだろうか。
 
声をかけてくれた人もおり、自動車も徐行してくれたので理解は得られていたと思う。
広い範囲の大量の枯れ葉も多くのサイクリストにかかれば短時間できれいに片付き、多くのごみ袋が集まった。
用具の問題はあるが、参加する人は多ければ多いほど良いと感じた。
 
このような活動が小規模でも各地に広まれば地域住民の自転車に対する印象も変わるのではないか。
来年も多くの仲間と一緒にいろは坂清掃に参加したいと思う。
そして、終わった後に「南哲」の肉汁うどんを食べ納めに走って行くことも毎年の楽しみとしたい。
 
 

理事:坂田良平

まず、参加した皆さんが、(僕も含め)実に楽しそうに清掃をしていたのが印象的だった。
「社会貢献だ!」なんだと言っても、楽しくなければ続かない。いい大人たちが、やんややんやと、しかも初対面の人も、顔見知りも関係なく、楽しい時間を過ごしていたのは、何よりも素晴らしい。
 
そして、社会貢献の機会を提供するという意義は、とても大きい。
サイクリストの中には、少なからず、ある種の後ろめたさを感じている人がいる。自分はちゃんといていても、交通法規無視のやんちゃな運転をする一部の自転車乗りと、同じように見られているのではないか?、という後ろめたさだ。
いろは坂清掃活動は、そんな後ろめたさであり、葛藤を感じているサイクリストにとって、社会貢献活動ができる良い機会である。しかも、コトが掃除だから、分かりやすいし、良い意味で単純明快。参加する上での心理的ハードルも低いし、真似するのもカンタン(というと、中山さん、守分さんに失礼かもしれないが)だから、全国に広がる可能性を持つスキームだと思う。
 
こういった、王道的な活動の迫力であり、説得力というのは、グッチャリも見習わねばならないなぁ…
 
 
 

フォトギャラリー

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皆さん、お疲れさまでした!

 
 

文:坂田良平