街中で走行するトラックのドライバーから並走する自転車がどのように見えているのか、そして見えていないのか─。
グッド・チャリズム宣言プロジェクトでは、2016年12月3日、2tトラックの「死角」とその危険性を体験するイベントを実施した。想像以上に広かった死角…イベント・レポートをお届けする。

 

この「死角」のパネルが見えない事を運転席に座って認識し、改めて驚く。

この「死角」のパネルが見えない事を運転席に座って認識し、改めて驚く。

安全は相互の理解から

埼玉県戸田市の彩湖・道満グリーンパークで開催された「スポーツバイクデモ」会場で、グッチャリとワイ・インターナショナル、そして「らくもび」(楽で快適でわかりやすいモビリティを考え、実践する企画集団)との共同企画として、トラックの「死角体験会」を実施した。

左側のミラーで視界を確認をする。思わず「左良し!」っと言いたくなる?

左側のミラーで視界を確認をする。思わず「左良し!」っと言いたくなる?

これはサイクリストが実際に2tトラックの運転席に座り、その視界を体験するというもの。死角の存在と危険性を認識することで、安全意識の向上につなげることが目的だ。

トラックなどの大型車による巻き込み事故は数多く発生している。事故にならなくても、死角に入ってしまった自転車が、大型車に幅寄せをされたと感じるトラブルも多い。トラックドライバーがどんなに注意をしても、自転車がミラーを含めた視界に入っていなければ認識はできない。このため、ドライバー側の事故の防止には限界がある。

 

自転車よりもずっと高所となる運転席からは、前方の視界の広さが実感できる。

自転車よりもずっと高所となる運転席からは、前方の視界の広さが実感できる。

もちろんドライバーの安全確認意識の向上も大事だが、まずは双方がお互いの状況をよく理解することが大切だ。自転車利用者がトラックの死角を知り、安全意識と注意レベルを上げることができれば、これらのリスク回避につながっていくはずである。

 

1.6m離れただけで「死角」に

今回は2t車のロングパネルトラックを使って、ミラーと直接目視での見える範囲と見えない死角となる境界にラインを引いて、見えないギリギリのところに自転車に見立てた原付バイクを設置した。

運転席に座った参加者には、まずドライバーがどのように安全確認をしているかを説明し、自分でも確認してもらうところから始める。

運転席に座った参加者には、まずドライバーがどのように安全確認をしているかを説明し、自分でも確認してもらうところから始める。

 

実際にトラックのドライバー席に座ってみた。まずは「らくもび」のメンバーによる具体的なドライバーの視点や視界、注意している事や、さまざまな状況による運転者意識などについて説明を受けた。説明者のひとりは現役の大型路線バスの運転者であり、他のメンバーもバス運転の経験のある方々だ。

スタッフが実際に立って、見える範囲と見えない範囲を具体的に解説する。

スタッフが実際に立って、見える範囲と見えない範囲を具体的に解説する。

いよいよ実際に死角を体験する。まずミラー越しにトラックの右側の視界内に立っているスタッフを確認。次にスタッフが視界の外にある原付バイクへ移動し、またがる様子を窓から顔を出して確認した。顔を戻して再びミラーを見ると、原付バイクとスタッフは視界から消えている。そして窓から横を見ても、後ろを覗き込むように振り返らない限り視界には入らない。トラックから離れた距離はわずか1.6m。トラックから下車してその近さを実感し、思わず「こんな場所がドライバーから見えていなかったの!?」という言葉が漏れた。

 

死角の範囲はトラックボデーからたった1.6mしか離れていない事を説明中

死角の範囲はトラックボデーからたった1.6mしか離れていない事を説明中。

続いてこのようなトラックの死角範囲や安全に走るための安全領域などについて、パネルを用いてスタッフから丁寧に説明を受けた。実際、自転車で走っていてこのような死角に入る事は多々あるという。「多分ドライバーから見えているだろう」という先入観を捨てることが大事だと認識できた。

 

認識不足による“思い込み”を解消

左側の死角を体験した。右側と同様にミラー越しに見える範囲にスタッフに立ってもらい、次に見えない範囲にスタッフが移動する。見えなくなってから左側の窓から顔を出して確認すると、すぐそこにスタッフが立っているのである。

一方、ミラーで見ることができないのが、後方の視界だ。だが最近のトラックには屋根の最後部にカメラが装着されており、車内のルームミラー位置に設置されたモニターで常時確認する事ができる。このカメラの視界は非常に広く、後方確認はしやすくなっていることがわかる。

ただし、古いトラックにはカメラもモニターも装着されていない車が残っているため、後部を確認できないトラックが急ブレーキを踏んだときなどは、追突のリスクが高まる事を認識しておく必要がある。いずれにせよ、相手がトラックでも乗用車でも、常に急ブレーキを踏まれるリスクを意識しながら十分な車間距離を取ることが重要である。

 

トラックの死角範囲や安全領域などの説明用パネル。

トラックの死角範囲や安全領域などの説明用パネル。

左右後方の視界範囲を認識したところで、トラックを下車し「バスと自転車の共存プロジェクト」の内容や、地元である戸田市の「自転車通行空間」への取組みや理解活動などをポスターパネルで説明を受けた。安全のために草の根活動で、さまざまな取組みが行われている。

死角を意識して危険から身を守ろう

9月に行われた「ツール・ド・三陸」で大型バスとダンプカーの死角体験を実施し、好評だったことから首都圏での今回の開催につながった。このような試みを各地で継続して行うことができれば、サイクリスト側の認識不足によるトラックに対する‟思い込み”の解消にも役立って行くだろう。安全意識もさらに上がり、危険の予防にも繋がっていくはずだ。

実際に「死角体験」をされた皆さんからは、以下のような反応があった。

 「こんなに近くにいるのに見えなかったのかと驚いた」
「これからはトラックに接近する際には注意したい」
「過去の危ない場面って、運転手からは見えていなかったのかも…」
「右側を通過する時に、運転席のドアが開く不安があるので距離を取る」
「死角を意識して、そこに入らないように走行したい」
「トラックやバスなどの停車時は、できる限り後方で待つよう心がける」
「運転者から見えてないかな?と思う時は無理して行かないようにする」
「無理な追い越しやすり抜けはしないと改めて心に誓った」

 

また、現役のトラックドライバーで、自転車もオートバイにも乗る人からは、「自転車が死角スペースに入ってくると、この速度差だと左折減速で追いつかれ、巻き込みリスクが高まるだろう、などと気にしながら運転しています」といった貴重な話も聞くことができた。

今後もグッチャリと「らくもび」の活動として、各地で様々な死角体験会を実施していきたいと考えている。

(瀬戸圭祐)

 

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